アメリカで最先端の患者の権利を調査研究してきました(第11回)

米国調査報告第11回、 Ann Neale さんのお話です。

Neale さんは、看護師ではなく、生命倫理に関する研究家です。NHS(健康福祉局)などで倫理関連のコーディネーターの仕事を行い、2000年にジョージタウン大学に戻り教鞭を取っている、生命倫理の専門家です。これまでの話しとは違った角度から、お話しをして頂きました。

アン・ニールさん

アン・ニールさん

医療システムの中の倫理問題は、3つに分ける事が出来ます。社会的な倫理: social ethics 、組織としての倫理: organizational ethics 、臨床的な倫理: clinical bioethics です。これらを別々に考える人がいますが、きちんと分ける事はできません。

医療(ヘルスケア= healthcare )は社会的な公共財であり、人々が健康に生活する上で欠くことの出来ないものです。社会的な公共財であるという事は、市場原理に基づいて流通する商品とは違うという事です。

病院の組織を経営する事になれば、もちろんマーケティングなど経営上の概念を知らなければいけませんが、トヨタの経営者と同一のものであってはいけないと思います。

学者には色々な意見がありますが、ここでは私の考えを中心に話します。私は実戦家なので、抽象的なことではなく、生命倫理に関するマネジメントについて具体的なお話しをしたいと思います。

倫理にフリーゾーンはありません。常に倫理が関わってきます。ですから、病院の経営最高責任者に話をする時には、彼らに取って予算は最も重要な事ですが、予算の配分を考えていく時に倫理を全うしているかどうか、という観点で話をしていきます。

医療における倫理について3つの側面がありますが、社会的な倫理というのは、政府の方針や政策です。具体的には国の医療政策で、財政的にどう支援して行くかという事になりますが、その面では、米国はあまり道徳的ではないと言えます。2つ目は組織の倫理、それぞれの病院のシステムの中で、どのように道徳的な責任を全うしているかという事です。同心円で書いた絵で考えると、社会倫理があり、組織倫理があり、一番内側に現場における生命倫理、従って個人のレベルが臨床的な倫理という事になります。言い換えると、一番外側が国の政策、その内側が組織、病院かもしれません。そして、真ん中が個人という事になります。

(つづく)