アメリカで最先端の患者の権利を調査研究してきました(第38回)

まとめに代えて(2) 連載第38回

米国医療の問題点は、第30回でも触れましたが、保険制度です。国民全体をカバーする医療保険制度がないため、国民の7人に1人が無保険状態におかれています。 60%以上の国民は民間保険に加入していますが、利用可能な病院や治療・検査などは保険会社によって異なります。家や会社の目の前に病院があっても受診できるとは限りません。

日本では診療報酬で認められた範囲であれば、医師が必要と認めた検査は基本的に何でも可能ですが、米国では検査や治療が極端に制限されているため、必ずしも十分な検査が受けられる訳ではありません。また、治療にも様々な制限が加えられているため、米国の医療技術がどんなに高くても、すべての国民が享受できる訳ではありません。救急車が有料で、かつグレードがあり、病院に着くまでの時間が違うこともあります。

西半球で唯一のダ・ビンチ作品「リヒテンシュタインの貴婦人」

西半球で唯一のダ・ビンチ作品
「リヒテンシュタインの貴婦人」

唯一の公的な保険として主として高齢者対象のメディケアと、低所得者対象のメディケイドがありますが、入院日数など利用に制限が有ります。従って、長期療養するには、最終的には財産をすべて費やすか、メディケイドを利用する事になります。「金の切れ目が………」といわれる所以です。

李啓充さんの著書(注)に詳しく触れられていますが、米国の大病院の経営には営利企業が参入しています。そのため、しばしば、医療犯罪ともいうべき事件が起きています。

偽りの診断名の元に治療の必要のない患者を精神病院に入院させ、組織ぐるみで治療費を詐取した「NME事件」( NME:National Medical Enterprise、1986年~1991年)など、枚挙にいとまはありません。

注:「市場原理にゆれるアメリカの医療」、「アメリカ医療の光と影」、「市場原理がアメリカ医療を亡ぼす」(いずれも、医学書院刊)

「保険証1枚で自由に医療機関を選べる」フリーアクセス、誰でもどこでも病院・診療所を受診できるこの制度が日本の医療の優れた点であることは間違いありません。

インタビューが終わった後にお礼をいうと、ある方が「(フリーアクセスの)日本の医療制度はすばらしい。最近日本は米国型の医療制度に変更しているようだが、絶対に米国のまねをしてはいけない」と、握手をしながら強い口調で答えました。

WHO(世界保健機関)が、総合評価で世界一とした日本の医療制度が徐々に改悪されていこうとしている事に、米国の医療関係者も心を痛めているようです。

(次回に続く)

アメリカで最先端の患者の権利を調査研究してきました(第37回)

まとめに代えて(1) 連載第37回

日本生活協同組合医療部会・医療活動委員会は、「医療生協の患者の権利章典」の具体化と定着をすすめるために、諸外国の患者の権利擁護システムを調査し報告」する事を決め、この分野では最も進んでいる米国の調査を行うことにしました。

「医療生協の患者の権利章典」の実践は、全国で行われていますが、患者の権利章典の掲げる理想と、現実に行われている医療のあり方が大きく掛け離れているのではないか、患者の権利章典を日常の医療の中でどう実践していくか、日常的にどう定着させていくかという事が求められている、という反省の元に、「患者の権利章典実践ガイドライン(案)」を作成し全国に広める活動を行って来ました。

米国滞在中のホテルの食堂に日本のアニメが (本文には関係ありません)

米国滞在中のホテルの食堂に日本のアニメが
(本文には関係ありません)

同時に、医療のあり方そのものに目を向けた問題提起や、医療現場における様々な意志決定を行う際の考え方についても提起する必要性が求められていると考え、医療倫理研究会公開学習会を定期的に開催して学習を深めて来ました。

その中で、「倫理的意志決定」のありかたや、「患者の権利を擁護するシステム」( patient advocate )について、更に調査・研究を深めていく事になりました。

今回の渡米調査の主な目的は、「 bioethics 」「 advocate 」をキーワードにして、米国の医療現場で、どのようなシステムが構築され、臨床の現場でどう機能しているのかを、直接みてくる事でした。そして、日本の、とりわけ医療生協の活動にどう役立てるかの提言を行う準備をすることでした。

この連載では、第30回を除いて、米国の医療システム、とりわけ患者の権利を擁護するシステムなど、優れた側面について述べて来ました。優れたシステムから、日本の事情にあったものを学べばよい、という考え方があったからです。

しかし、調査チームのまとめの会議の中で、このまま「よいところ」だけを強調したのでは米国医療の全体像を伝える事にはならないのではないか、という意見がでました。しかし、よいところもあれば悪いところもある、という報告では何がいいたいのか明らかでなくなり、今回の調査報告の目的が曖昧になるとも考えました。

そこで、報告の中心は「患者の権利擁護のシステム」の現況を伝え、日本で応用する時の資料になるように編集する事にしました。米国医療の「影」の部分は、この連載では、第31回~第35回の市原さんのインタビューの内容と第30回の内容に反映されています。

(この項続く)